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VINTAGE CARE / REPAIR
古着のリペア判断|直すべき破れ・残すべきダメージ

古着の破れを見つけたとき、直すか、残すか、見送るか。ぼくは穴の大きさでは決めません。見るのは、その穴が「力の集まる場所」にあるかどうかと、生地そのものがまだ生きているかどうかです。
ぼくの判断順は、大きさより場所
1センチの穴でも、肘や股ぐらにあれば広がります。5センチの裂けでも、裾の内側なら止まります。穴の大きさは、直すかどうかの判断材料としては弱い。
- 場所を見る肘、肩、脇、股、膝、袖口、裾。力が集まる場所の穴は、放置すると必ず育ちます。
- 生地の体力を見る穴の周りを指で軽く張ってみる。すぐ透ける、糸が動く、粉が出るなら弱っています。
- 直し方の可逆性を考えるあとで元に戻せる方法か、戻せない方法か。古着では後者の重みが違います。
- 費用と価格を並べる直す費用がその一着の値段を超えるなら、判断は「買わない」に寄ります。
「縫っても周りが裂ける」には理由がある
繊維の試験機関の解説では、生地の強さを測る指標として引張強度と引裂強度は別のものとして扱われます。引っ張りに耐える力と、裂け始めたものが広がるのに抗う力は、別々に評価されるということです。
これが古着で効いてきます。経年で弱った生地は、見た目は繋がっていても裂けに弱くなっています。そこへ縫い糸で新しい力を集めると、縫い目そのものが次の裂け目の起点になる。「直したのに、すぐ横がまた裂けた」という現象は、腕の問題ではなく生地の問題であることが多い。
直し方は、仕上がりより「戻せるか」で選ぶ

| 方法 | 向く損傷 | 戻せるか | ぼくの見方 |
|---|---|---|---|
| かけつぎ(かけはぎ) | 小さな穴、かぎ裂き | 低い | 仕上がりは最良。ただし生地を動かすので不可逆 |
| ダーニング | ニットの穴、あえて見せる補修 | 比較的高い | 糸を足すだけ。古着では「直した跡」を意匠にできる |
| 当て布・ミシン補修 | 広い範囲、力のかかる場所 | 低い | 実用性は高い。見た目は変わる |
| アイロン接着芯 | 応急処置 | ほぼ戻せない | 古い生地には使わない。剥がすとき生地が傷む |
かけつぎは、その服から糸を抜いてくる
「不可逆」と書いた理由を、もう少し具体的に書きます。ぼくはこれを知ってから、かけつぎの見方が変わりました。
まず呼び名から。かけつぎは関西の呼び名で、かけはぎは関東の呼び名。同じものです。店によって表記が違うだけで、技術が違うわけではありません。
技法は大きく2つに分かれます。

| 技法 | やること | 材料をどこから取るか |
|---|---|---|
| 織り込み式 | 縦糸と横糸を一本ずつ入れ、元の布と同じ綾を再現する。小さめの穴向き | 共布は不要。裾の折り返しなど、見えないところから糸を何本か抜く |
| 差し込み式(刺し込み式) | 共布で傷口を覆い、四辺を元生地にはめ込む | 共布、裾の折り返し、ポケットの中。共布が無ければ、預けた品物そのものから布を取る |
専門店の解説には、調達箇所まで書かれています。ズボンなら裾、または脇ポケット。上衣なら裾から限界まで、あるいは胸ポケット。
だから仕上がりは最良になる。同時に、抜いた糸も、取った布も戻りません。ぼくが「不可逆」と書いているのは、縫い目が消えないという意味ではなく、服全体の生地の総量が減るという意味です。裾の折り返しは、次に裾を出したくなったときの余地でもあります。
できない生地もはっきりしています。専門店の解説ではコーデュロイ、コールテン・ベルベット、別珍、オーガンジー、ビニールは対応できないとされています。さらに、色が薄い生地や傷が大きい場合は目立ちやすく、綿素材では四角い跡が残って大変目立つという注意まで書かれていました。ヴィンテージで綿の一着を預けるなら、ここは先に確認したいところです。
接着芯は、無理に剥がすと生地を傷めるとミシンメーカーの技術記事が説明しています。ぼくはこれを重く見て、ヴィンテージには接着系を使いません。ただし「不可逆である」ことを正面から論じた一次資料は見つけられておらず、複数の記事の記述をまとめた判断です。
繕いを見せる考え方は、新しくない
ダーニングを調べていて、検索の候補に「ダーニング 恥ずかしい」が出てくるのを見ました。直した跡が見えるのは、みっともないのではないか。そう思う人がいるということです。
ぼくはこれに、歴史のほうから答えたいと思います。
イギリスでは1941年6月から1949年まで、新しい服を買うことが配給制でした。8年間です。買いたくても買えない状態が、それだけ続いた。そこで政府が始めたのが「Make Do and Mend」——あるもので間に合わせ、繕うという運動でした。商務省(Board of Trade)が1943年に最初の冊子を出し、情報省(Ministry of Information)が映画やポスターを作り、地域では裁縫教室が開かれています。

教えられたのは、靴下のダーニング、古くなった生地からの作り直し、廃材の活用、洗い方やアイロンのかけ方、そして仕立て直し。「Mrs Sew and Sew」という人物キャラクターまで作られました。国が、繕い方を国民に教えていたわけです。

そして古着では、この話がもう一段効いてきます。ぼくらが買う一着には、前の持ち主が繕った跡が最初から付いていることがある。それを失敗と見るか、その服が使われ続けた証拠と見るか。ぼくは後者で見ています。
実務的にも、ダーニングは糸を足すだけなので、かけつぎのように服から生地を持ち出しません。戻せるかという軸で見ると、ダーニングのほうが古着に向いています。見た目が変わることを許容できるなら、という条件付きですが。
ただし念のため書いておくと、ダーニングが強度を回復させるわけではありません。前の章で書いたとおり、弱った生地に新しい力を集めれば、その周りが次に裂けます。見せる繕いも、隠す繕いも、生地の体力そのものは増やせません。
直すと価値は下がるのか——ここは割れている
「ヴィンテージは直すと価値が下がる」という話をよく聞きます。調べてみると、資料の立場によって答えが逆になりました。
クリーニング業界の全国統一基準では、補修のあるものや恒久的な変色があるものは通常C級として扱われます。
買取業者の解説には、当時の丁寧なリペアはその個体の履歴としてプラスに働く、という見方があります。
前者は損害賠償を算定するための実務基準で、収集市場の資産価値の基準ではありません。同じ土俵の話ではない。
だからぼくは、「直すと下がる」とは書きません。下がると断定する根拠も、上がると断定する根拠も、今の手持ちにはない。収集市場の側から「修理により減価する」ことを示した一次資料は見つけられませんでした。
実務的にどうするかというと、ぼくは自分が着るために直すのか、売ることを考えて残すのかを先に決めます。着るなら直す。売る可能性があるなら、直さずに現状のまま持つ。この二つを混ぜないだけで、判断はかなり楽になります。
料金は「相場」ではなく「掲載例」として読む
公開されている料金を複数の店で並べると、同じ「かけつぎ」でも桁が変わります。1,000円台から始まる店もあれば、5,500円から22,000円という幅で案内している店もある。これは店の高い安いというより、面積・技法・素材で計算の仕方が違うためです。
ぼくの目安は単純で、直す費用がその一着の購入価格を超えるなら、買う段階で見送ります。思い入れのある一着は別ですが、それは相場の話ではなく個人の話です。
買う前に、写真で分かることと分からないこと
出品写真から判断できるのは、穴の位置と大きさ、周囲の色褪せくらいです。生地の体力は写真ではほぼ分かりません。薄くなっているのか、まだ張りがあるのか。ここが分からないまま買うことになります。
だからぼくは、破れのある個体には追加写真を頼みます。①穴の全体、②穴の裏側、③穴から少し離れた同じ生地の接写の3枚。裏側は補修跡の有無が分かり、離れた場所の接写は生地の状態が分かります。
そのうえで判断が付かなければ、見送ります。シミも一緒にあるならシミ抜きの記事の中止条件も併せて考えます。買ったあとの保管で悪化させないためには保管方法のほうも。
金属パーツの錆は、判断材料が乏しい
ジッパーやボタンの酸化について、どこからが修理不能かを示す信頼できる基準は見つけられませんでした。動くかどうか、生地に色が移っていないか、という現物確認に頼るしかないのが現状です。
