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VINTAGE CARE / STAIN

古着のシミ抜き|自宅で触ってよいシミ・店に任せるシミ

白いシャツの胸元に黄色いシミがあり、下にタオルを敷いた様子

古着のシミは、いつ付いたか分かりません。新しいシミの落とし方をそのまま当てても、うまくいかないことがあります。ぼくは、触る前に「これは自分が触っていいシミか」を決めます。触ってから後悔する処置が、この分野には多いからです。

先に結論ぼくの順番は、①素材を確認、②シミを分類、③弱い操作から一方向に、④色が動いたら中止。そして塩素系漂白剤と酸性のものは絶対に混ぜません。ここだけは好みの問題ではなく、健康被害の話です。

ぼくは触る前に、この順で決める

古着のシミ抜き前に素材とシミを確認し、弱いお手入れから試して色移りがあれば中止する手順を描いた図

シミ抜きの失敗は、たいてい「落とそうとしすぎた」結果です。落ちなかっただけなら次の手がありますが、生地を傷めたり色を抜いたりすると戻せません。だから順番を固定します。

  1. 素材を確認するタグを読む。読めないなら慎重側に倒す。素材タグの読み方を先に。
  2. シミを分類する水溶性か、油性か、たんぱく質か、時間が経って酸化したものか。
  3. 弱い操作から始めるいきなり漂白剤に行かない。効かなければ一段だけ上げる。
  4. 色が動いたら止めるこれがいちばん大事な判断です。落ちるより、抜けるほうが怖い。
古着では「時間」が最初から進んでいる買った時点で、そのシミが何年前のものか分かりません。付着直後なら落ちるものも、繊維に定着して変色していれば家庭では戻せません。落ちない前提で買うか、値段で折り合うかを先に決めておくほうが、無理な処置に走らずに済みます。

まず、混ぜてはいけないものの話

STOP:塩素系漂白剤と酸性タイプの製品を混ぜない有毒な塩素ガスが発生し、健康被害につながります。同時に使わないのはもちろん、続けて使うのも、狭い洗面所で並べて置くのも避けます。「まぜるな危険」の表示があるのはこのためです。

これは注意喚起ではなく、制度として決まっている話です。消費者庁の雑貨工業品品質表示規程は、家庭用の漂白剤を塩素系・酸素系・還元系に区分したうえで、混ざったときに一定濃度以上の塩素ガスが発生する製品には「まぜるな危険」の表示を義務づけています。実際に混合による健康被害の事例も公的に記録されています。

あの表示は、二人が亡くなったあとにできた

塩素系と酸性タイプの洗浄剤を一緒に使わないよう警告する『まぜるな危険』の図

「まぜるな危険」がいつからあるのかを調べていて、手が止まりました。厚生省が平成元年2月8日に出した通知(衛生第10号)に、経緯がそのまま書かれています。

昭和62年12月、次亜塩素酸ナトリウムを含む塩素系の洗浄剤と、酸性タイプの洗浄剤を併用したことで発生した塩素ガスが原因と推定される死亡事故が起きました。国はこれを受けて、昭和63年に1月12日、1月28日、11月10日と3回にわたって適正使用の周知を求めています。

それでも止まりませんでした。翌年の1月29日、洗浄剤と漂白剤の併用が原因とみられる死亡事故が、再び起きています。この2件目を受けて出されたのが、さきほどの通知です。表示が全製品の表ラベルへ義務づけられたのは1990年3月からとされていますが、この年月そのものは通知本文では確認できず、二次的な資料に拠っています。通知が出た事実と、その中身のほうを根拠として読んでください。

文字の大きさまで決まっている通知は表示の書式まで指定しています。「まぜるな」は28ポイントの黄色、「危険」は42ポイントの赤。デザインの都合で小さくすることも、色を変えることもできません。
ボトルのあの一角だけ、妙に主張が強いと感じたことはないでしょうか。あれは主張が強いのではなく、二度の死亡事故のあとに決められた寸法です。

ぼくがこれを最初に書くのは、シミ抜きの現場がまさに「複数の薬剤を試す」場面だからです。落ちないと、つい次を足したくなる。そこが危ない。3回の注意喚起では止まらなかった、という事実のほうを覚えておくといいと思います。知らなかったから起きたのではありません。

もうひとつ、よく見る「塩素系は毛・絹・ナイロン・ポリウレタンに使えない」というリスト。これは実務上ほぼ一致していて、ぼくも従っています。ただし調べた範囲では、消費者庁の規程そのものが繊維名を列挙しているわけではありませんでした。メーカーとクリーニング業界の記述が揃っている、という性質のものです。従うべき指針であることは変わりませんが、「法律で決まっている」とは書きません。

シミを4つに分けてから手を選ぶ

シャツのシミを水溶性・油性・たんぱく質・酸化や原因不明の4種類に分けて示した図
種類 例 ぼくの初手 やらないこと
水溶性 コーヒー、ジュース、汗、醤油 水か中性洗剤を含ませて、叩いて移す こする。輪ジミを広げる
油性 皮脂、化粧品、機械油、ソース 油を溶かす側から。中性洗剤を直接なじませる 水だけで粘る。時間をかけすぎる
たんぱく質 血液、卵、乳製品 必ず冷たい水から 熱を当てる。固着して落ちなくなる
酸化・不明 黄変、経年のシミ、正体不明 触らず、素材と一緒に店へ相談(黄ばみは別に考える) 漂白剤で押し切る
混ざっているときは、油から古着のシミは、きれいに1種類であることのほうが少ないです。洗浄を研究する立場からは、油性汚れと水溶性汚れが混ざっているなら、まず油汚れから取り除くのが鉄則とされています。理由がはっきりしていて、覚えやすい。
水溶性のほうを先に狙っても、油汚れが洗剤液をはじいてしまう。油に包まれた水溶性の汚れには、そもそも液が届きません。逆に、油汚れを落とすための洗剤類は浸透力が強いので、水溶性の汚れが一緒にあっても邪魔になりません。
だからぼくは、迷ったら油側から入ります。順番を間違えると、効かなかったのか届かなかったのかが分からなくなる。これがいちばん困ります。

たんぱく質に熱を当てると固まって落ちにくくなる、という原則は資料間で一致します。ただし何度から起きるかは、40℃・50℃・60℃と資料によってばらつきます。ぼくは温度の線引きを覚えるのをやめて、「血液系は冷水」とだけ決めています。境界が曖昧なら、安全側に寄せたほうが早い。

黄ばみだけは、原因が2つある

古着で圧倒的に多い相談が黄ばみです。そしてこれだけは、ほかのシミと構造が違いました。調べていていちばん腑に落ちたのが、日本家政学会誌に載っていた洗浄学の解説(横浜国立大学・大矢勝、2019年)です。

シャツの黄ばみの正体は、ひとつではありません。タンパク質の汚れと、不飽和結合を持つ油の酸化。この2つが重なっています。

脇に多いのは、汗腺の種類が違うから

汗腺には、体じゅうにあるエクリン腺と、腋の下などに集中するアポクリン腺があります。黄ばみは、アポクリン腺に接触するところに圧倒的に多く見られる。アポクリン腺から出る汗にはタンパク質が含まれていて、これが原因のひとつだと説明されています。

襟や袖口の黄ばみも同じ話で、皮脂と汗が残ったまま時間が経つと出てきます。「洗ったのに黄ばむ」のではなく、「落としきれていなかった分が、あとから色になる」という順番です。

油なら何でも黄ばむわけではない

ここが面白いところでした。同じ脂肪酸でも、黄ばむものと黄ばまないものがあります。

物質 種類 時間が経つと
ラウリン酸(C12) 飽和脂肪酸 変わらない
パルミチン酸(C16) 飽和脂肪酸 変わらない
オレイン酸(C18) 不飽和脂肪酸 元から黄ばみがあり、放置するとどんどん増す

この解説には、実物の話が添えられています。著者の研究室には昭和61年に購入したラウリン酸ナトリウムとパルミチン酸ナトリウムがあるのですが、30年以上経った今でも真っ白だそうです。一方、常用しているオレイン酸ナトリウムのほうは、放置すると黄ばみが増していく。

違いは、分子の鎖に不飽和結合があるかどうか。そこが酸化されると黄ばみが増します。大豆油を主体にしたサラダ油を空気にさらしておくと、だんだん黄色くなって粘り、数カ月で黄色い塊になる——あれと同じ話です。

だから、時間が経つほど落ちにくい酸化が進むと、黄ばみが増すだけでなく分子量が巨大化して、除去そのものが難しくなります。「古いシミは落ちにくい」は感覚ではなく、汚れの側が物理的に変わっているということです。
古着のシミがいつ付いたか分からない以上、この変化がどこまで進んでいるかも分かりません。ぼくが黄ばみを「落ちる前提で買わない」扱いにしているのは、これが理由です。

ドライに出したのに、また黄ばむ理由

経験がある人もいると思います。これも構造で説明できました。

ドライクリーニングは石油系溶剤で油を溶かす方法なので、油汚れにはよく効きます。落ちにくくなった油汚れも、溶解作用で取り除ける。ところがタンパク質のような水溶性の汚れは、ドライではほとんど除去できないと考えたほうが無難だとされています。

つまり、ドライに出して持ち帰ったあと、残っていたタンパク質汚れのほうが、あらためて黄ばんでくる。クリーニングが手を抜いたのではなく、その処理が対象としていない汚れが残っていた、ということです。

だから黄ばみは、1回の処理で終わる前提を持たないほうがいい。ぼくは店に出すとき、「脇の黄ばみで、タンパク質のほうが残っている可能性を見てほしい」と伝えるようにしています。素人の見立てを押しつけるためではなく、どちらを狙ってほしいかを言えると話が早いからです。

弱い操作から、一方向に進む

手順そのものより、進み方のルールのほうが大事です。ぼくは3つだけ決めています。

ONE WAY戻らない方へ進まない

中性洗剤 → 酸素系 の順で、一段ずつ。効かないからと前の段に戻ったり、混ぜたりしない。

NO RUBこすらない

叩いて下の布へ移す。こすると繊維が毛羽立ち、そこだけ光り方が変わって残ります。

TEST目立たない所で試す

裾の裏、縫い代、内ポケット。白い布に色が付かないかを先に見ます。

輪ジミ(処置した縁だけ跡が残る現象)を避けるには、シミの外側から中心へ、境目をぼかすように進めるとよいとされます。ただしこの現象が起きる正確な機序を説明した一次資料は見つけられませんでした。毛細管現象で溶けた汚れが縁に運ばれる、という説明が一般的ですが、ぼくは機序ではなく「広い範囲を薄く濡らす」という操作のほうを守っています。

ベンジンを使うなら換気を油性に有効ですが引火性があります。資料は一様に「十分な換気」を求めますが、換気回数や時間といった定量的な基準は確認できませんでした。ぼくは窓を開けられない場所では使いません。

中止する条件を、先に決めておく

STOP:ここで手を止める試し布に色が付いた。シミの周りが白っぽくなってきた。生地が毛羽立ってきた。同じ操作を3回繰り返しても変化がない。どれか一つでも当てはまったら、その日は終わりにします。

「あと一回で落ちるかも」がいちばん危ない瞬間です。落ちなかったシミは店に持ち込めますが、色が抜けた生地や裂けた繊維は持ち込んでも戻りません。ぼくは、判断を熱くならないうちに済ませるため、始める前に中止条件を口に出して決めます。

生地そのものが弱っている場合は、そもそも触る前の問題です。破れや薄くなった箇所があるなら、リペア判断の記事のほうを先に読んでください。

店に任せるときは、やったことまで渡す

シミ抜きは追加料金のオプションであることが多く、公開されている料金はおおむね数百円から2,000円程度が目安です。ただし掲載額は最低ラインで、支払総額とは限りません。シミの範囲、素材、色補正の要否で変わります。

持ち込むとき、ぼくは必ず「何を、どのくらい、どの順で試したか」を伝えます。黙っていると店側が同じ処置を重ねることになり、生地への負荷が二重になります。落ちなかった事実より、すでに薬剤が入っていることのほうが重要な情報です。

買う前に写真で見抜けるか

正直に書きます。出品写真からシミの種類を見分ける方法は、調べても信頼できる資料が見つかりませんでした。色や輪郭からの推測は可能ですが、根拠として示せるものがない。だからぼくは、写真では種類を判定せず、「シミがある個体は落ちない前提で値段を見る」という扱い方をしています。追加写真を頼むなら、シミの全体・接写・裏側の3枚です。

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参考にした公式・専門資料